日本、アメリカ、ヨーロッパでは、空調の文化がまったくと言っていいほど異なります。それぞれの空調に対する考え方や特徴と、空調についての世界的な流れの変化を見てみましょう。
空調文化の違い―日本とアメリカ
日本とアメリカでは、その空調の仕組みについてまったく違う発展の道をたどってきました。
アメリカでは、セントラル空調、またはフォースドエアシステムと呼ばれる、ダクト式空調が主流です。建物の1カ所に暖房装置または冷房装置を設置し、温風や蒸気または冷気をダクトにより各部屋へと送る仕組みです。これは比較的新しい建物に採用され、特に中西部・南部・西部で使われています。
一方、古い街並みの残る北東部では、ウィンドウ式のエアコンが多く使われています。米国エネルギー情報局の調査によると、中西部ではウィンドウ・ウォール式エアコンの使用割合が26%であるのに対し、北東部では58%の世帯で使われています。
日本では、局所式冷暖房システムが主流です。もともと日本では、人のいる場所だけを温める・冷やすという考えが根付いており、部屋ごとに設置できるエアコンが普及しました。
アメリカ北東部に多く見られるウィンドウ式、日本で使われている壁掛け式は、ダクトを建物内に張り巡らせる必要が無いことから、ダクトレス式空調と呼ばれています。
このダクト式・ダクトレス式の空調を比べてみたとき、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。
ダクト式は、ホールや吹き抜けなど、大きな空間を冷暖房する場合に適しています。冷暖房装置が目に見える場所にないことで、部屋の美観が損なわれないというのも利点のひとつです。日本のエアコンに慣れているとあまり気になりませんが、セントラルヒーティングに慣れている人は、壁や部屋の隅に冷暖房装置があると、違和感を持つようです。そして何より、建物内でどこに行っても温度が一定に管理されているというのが大きなメリットではないでしょうか。近年取り沙汰されているヒートショックも、すべての部屋の温度が管理されていれば無縁となります。
しかし、電源のオン・オフや温度設定をする場合には、建物全体の設定を変える必要があります。また、新築時に設置されていない建物では、屋根裏や壁の中にダクト工事が必要となり、設置に期間と費用を要します。
これに対しダクトレス式は、ダクト式のような大掛かりな設置工事は必要ありません。また必要な部屋だけ電源を入れ、部屋ごとの温度調節も簡単です。これは省エネの観点からも注目されており、近年ではアメリカでもダクトレス式が普及しつつあります。
空調文化の違い―アメリカとヨーロッパ
一方で、アメリカとヨーロッパも空調文化に違いがあります。
ヨーロッパでは、部屋を強制的に冷やすことがあまり好まれません。暑ければ窓を開けて風を通したり、日除けを設置したりというのが一般的で、エアコンはほとんど普及していませんでした。このような文化のヨーロッパから見ると、アメリカの空調の使い方には首をかしげたくなるようです。
ワシントン・ポストに、「ヨーロッパからアメリカへ:エアコンへのあなたの愛はばかげている」と題したコラムが掲載されました。このコラムには、ヨーロッパとアメリカの空調文化の違いが分かりやすく書かれています。
アメリカを訪れたヨーロッパ人の多くは、冷房の効きすぎに驚き、逆の場合ではヨーロッパ人のエアコンを使わない温度調節能力にアメリカ人は驚くそうです。
またこの中で、「アメリカは空調の使用率について世界のリーダーだが、環境への配慮を考えるとそれはいいリーダシップではない」と言っています。
欧米でもダクトレス式が普及
このように、日本、アメリカ、そしてヨーロッパではそれぞれ空調の仕組み、空調に対する考え方に違いがあります。しかし近年、アメリカではダクトレス式のエアコン普及が進みつつあり、またヨーロッパでも同様にエアコンが増えています。ただし、これは欧米に限ったことではありません。
インドでは急速にエアコンの普及が進んでいます。TechSci Research社の調べによると、インドのエアコン市場は2015年~20年の間に10%以上のCAGR(年平均成長率)があると予想されており、その主力となっているのがダクトレス式エアコンです。
このように、ダクトレス式エアコンの普及が進む背景には、日本の空調機器メーカーの攻勢があります。
ダイキンは2007年、オランダにダイキンエアコンディショニング・ネザーランド社を設立、その後ヨーロッパの空調市場を先導してきました。
また三菱電機は、ダクトレス空調機販売の分野において、米国Ingersoll Rand社と合弁会社を設立しました。ダクト式空調が90%以上を占めるアメリカで、ダクトレス式空調が年率10%以上の成長を見せていることから、市場の拡大を狙う方針です。
このように、ダクトレス式エアコンの普及が進むのは、環境に対する意識の高まりが影響していると思われます。必要な場所だけに限定して温度管理するダクトレス式に、注目が集まっているのです。
空調文化もグローバルスタンダードへ
アメリカとヨーロッパ、そして日本の空調について、考え方や文化の違い、それぞれの方式におけるメリット・デメリットをご紹介しました。これまで別々の発展を遂げてきた世界各地の空調文化は、地球規模で直面する環境問題により、ひとつの流れへと統合されつつあるのかもしれません。
これからの世界的な主流はダクトレス式になっていくのか、また日本の空調機器メーカーはどこまで攻勢を見せるのか、その動向に注目が集まります。