2020年の東京オリンピックにより、今、建設業界は景気上昇傾向にあります。オリンピック特需は日本の建設業界にどのような変化をもたらすのでしょうか。過去のオリンピックと景気の関係から、建設業界の市場動向と課題を考えます。
東京オリンピックに向け建設業界は好調
2020年の東京オリンピックに向けて、建設業界は特需に沸いています。
日本銀行では、「2020年東京オリンピックの経済効果(PDF)」としてオリンピックのもたらす経済効果をまとめています。このなかで、東京オリンピックの開催により経済成長率が押し上げられる可能性が高いとしています。その根拠となる内容を見てみましょう。
まず注目すべきなのは、建設投資の規模です。オリンピック関連の建設投資を、オリンピックスタジアムに上限1,550億円のほか、環状線整備や再開発など、合わせて10兆円規模の見込みとしています。また、民間に目を向けると、右肩上がりで増加しているのが宿泊施設のリニューアル投資です。2011年から上昇を見せ、2015年には2,500億円を超す投資が行われています。
これらオリンピックに向けての直接的な数字は、建設業界全体で見たとき、市場にどのような影響を与えているのでしょうか。
国土交通省の「平成29年度建設投資見通し(PDF)」よると、2017年の建設投資は54兆9,600億円になる見通しです。2010年の建設投資42兆円から大幅に回復しており、東京オリンピックに向けて建設業界に好調の兆しが見えていることがうかがえます。
深刻な人手不足が懸念される建設業界
特需に沸く一方で懸念されているのが、建設業界では深刻な人手不足です。
国土交通省の取りまとめた「建設産業の現状(PDF)」によると、建設業界の就業者数は、1997年の685万人をピークに減少を続けています。2016年には492万人と、ピーク時から28%もの減少を見せています。また、この492万人のうち34%が55歳以上と、高齢化に伴う大量退職が控えていることもあり、さらに深刻化が増しています。
このような事態に対し、政府も取り組みを始めています。オリンピックによる建設需要の増大に対し、即戦力となり得る外国人材の活用促進を図る「外国人建設就労者受入事業」を開始し、対策をすすめています。
特需の頂点とその後の課題
オリンピックによる建設業界の特需は、いつまで続くのでしょうか。経済産業省が解説している「建設業とオリンピック」から、その動向を予測してみましょう。
ここでは、日本で過去3回開催されたオリンピックについて、就業者総数における建設業就業者数の割合の推移から建設需要を推察しています。1964年の東京オリンピックでは、開催の2年前に建設就業者割合は大きく増加しています。1972年の札幌オリンピックでは開催の前年、1998年の長野オリンピックでも、開催前年に大幅な増加をしています。また、それぞれのオリンピックにおいて開催年まで増加は続いています。
このように、過去のオリンピックと建設需要のピークを比べたとき、開催の2年前から開催年までがピークとなっています。このことから、東京オリンピックの特需は2018年から2020年にピークを迎えると予測されます。
しかし業界好調の陰で、心配される点もあります。オリンピック特需のピークを過ぎた後、日本の成熟した建設業界市場は減衰傾向となるはずです。そのとき、人手不足問題に対して大量に雇い入れた人員が、今度は大量に解雇される恐れがあります。政府による外国人雇用策についても、低賃金雇用が定着してしまえばさらに建設業界の就業者数減少を招くリスクを持っています。
このように、オリンピック特需を過ぎた後にはさまざまな課題も残ることが予測され、業界だけでなく国をあげて取り組んでいく必要があります。
求められる建設業界の変革
2020年の東京オリンピックにより、建設業界の特需はこれからピークを迎えると予測されます。しかし、依然として人手不足という大きな問題は残り、またピークを過ぎた後にも課題が残ります。東京オリンピックは、建設業界にとって変革が求められるひとつの節目となるかもしれません。