東京都では、年間何件の火災が起きているのでしょうか。また、その火災の内訳や原因はどうなっているのでしょうか。東京都の火災の現状について、資料を基に解説します。
東京都の火災の現状
東京都の火災はどのような状況となっているのでしょうか。東京消防庁の公表している災害統計から、現状を見てみましょう。
火災発生件数の推移
東京消防庁が発表した「平成28年中の火災の状況(PDF)」では、平成19年から平成28年までの火災件数をまとめています。平成19年には5800件だった火災が、平成24年には5089件、平成28年には3982件と、都内の火災は10年間減少傾向にあります。
特に平成28年は、前年比10.2%となっており、防火対策が進んでいることがわかります。
出典:東京消防庁リーフレットより抜粋
火災の多い建物とは
同資料では、平成19年から平成28年までの「建物用途別の火災状況」も報告しています。建物の用途別(種類別)で見ると、住宅火災が最も多いことがわかります。しかし住宅火災の件数も、先述の火災件数と同様に、10年間減少を続けています。
一方で、住宅を除いた事業用建物のなかでは、飲食店が10年連続で最多という結果になっています。また、火災件数および住宅火災の件数は減少傾向にあるにもかかわらず、飲食店の火災だけは増加しているという驚きの結果となっています。
飲食店の火災はなぜ多いのか
飲食店の火災だけが増えている原因はどこにあるのでしょうか。
東京消防庁では、飲食店の火災予防をすすめるうえで、「飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策等検討部会報告書(PDF)」を取りまとめました。このなかで、飲食店の火災が多い原因を分析しています。
- 業務用の厨房(ちゅうぼう)設備に関して、調理油過熱防止装置・立ち消え安全装置の設置が義務化されていない
- 調理手法の多様化・効率化・調理時間短縮のために、厨房設備の高火力化・複合化が進んでいる
- 店舗営業時間が長時間化、厨房設備を使用するためメンテナンスの時間が取れない
これら三つが、火災増加の背景にあると考察しています。
またこの報告書では、飲食店におけるダクト火災の危険性についても触れています。
ダクト内火災の危険性
飲食店の火災に関する同資料では、出火原因のほかに、延焼原因についても調査しています。飲食店火災において延焼が拡大する原因となっているのは、その多くが排気ダクトに関わっていると分析しています。
排気ダクト内に堆積した油塵(じん)から延焼が拡大することが多く、実際に排気ダクトが延焼する火災は年間20件~40件あることを報告しています。さらに防火ダンパーのメンテナンス不足により、ダンパーが作動しない事例もあります。
また、油塵が堆積する原因として、ダクトの構造上の問題も指摘しています。排気ダクトに関するアンケート調査から、設計・施工の時点でダクトの点検口が設けられていない場合が多数存在することがわかりました。また点検口があっても、増設や改築、設備の移設などにより、点検口が開かないといった事例も報告されています。このように点検・清掃が困難な設計になっているものも多く、油塵が堆積し続ける原因となっています。
このように、適切な構造になっていないことで油塵が堆積したダクト内が、延焼拡大の一因となり、飲食店の火災増加へとつながっているのです。
出展:Youtubeより”ダクトの燃焼実験映像~サーモグラフィーと実写の比較映像~”
火災の拡大を防ぐために
東京都の火災についてその実状を紹介しました。全体の火災発生件数は減少しているにもかかわらず、飲食店の火災だけは増加しているという実状が浮き彫りになっています。飲食店においては、ダクト内に堆積した油塵により火災が拡大している事例が多くあります。火災を拡大させないため、ダクト設計の時点で適切な点検口を配置し、定期的なダクト内の清掃を行うことが重要です。