建設業界の物流には多くの課題があり、業界構造から改革もなかなか進まないといわれています。業界が抱える課題と、改革を押しとどめている要因とはどのようなものなのでしょうか。各省庁のまとめた資料をもとに、業界に横たわる課題を解説します。また、建材物流の変革に乗り出した2社のITロジスティクスシステムを紹介します。
建材物流の実態と問題点
建材物流の実態と問題点を見てみましょう。
建材の物流構造
国土交通省は、「2016年度 貨物自動車運送事業における生産性向上に向けた調査事業」において物流効率の調査を行い、そのひとつとして、野村総合研究所が取りまとめた調査報告書を公表しました。
この報告書の中では、建材業界の物流を土木系建材と建築系建材の2つに大きく分けて考え、業界独自の特徴を分析しています。土木系建材については、特に砂利や砂、生コンの分野において物流商圏の小ささが特徴であるとしています。これらは全国どこでも採取できることから原料希少性が低く、市場価格の半分は輸送費で占められます。そのため遠隔輸送にメリットが少なく、現場近隣の事業者が有利となり、小さな商圏に採掘・物流事業者が数多く存在するようになったとしています。
また、もうひとつの特徴として、地域ごとに特異な商習慣が存在することを挙げています。商圏の小ささから、地域ごとに異なる取り扱い手順やネットワークが作り上げられ、この商習慣が非常に重要視されます。こうした背景から土木系建材の物流事業は、統合や大規模化が進んでいないと分析しています。
一方で建築系建材については、物流構造の複雑さを特徴として挙げています。
ひとつの建築物に必要とされる建材の数が非常に多く、また現場の数や種類も多様であることがその要因です。メーカーの数も多く、さらに大手ゼネコン、ハウスメーカー、工務店といった多段階構造ができ上がっています。これにより物流構造も複雑化し、5重・6重のプロセスを経て輸送されるケースも珍しくありません。
建材物流が抱える問題点
上記のように、土木系と建築系それぞれにおいて特殊な構造を持つ建材物流業界ですが、これらの背景とともに別の問題点も抱えています。経済産業省が取りまとめた、「建材物流効率化の仕組みを実現するIT活用の検討と構築」によると、次のような点が問題として残っているとされています。
- 業界に共通のITシステムがなく、手作業による膨大で煩雑な手配業務が発生している
- 現場への直接輸送が年々増加し、搬入スケジュール調整や便の手配などの物流業務が複雑化している
- 持ち戻りや種類ごとの運搬などにより、同一現場への多数回の配送が発生している
- 建材メーカーごとに集積し配送することにより、積載効率が悪化している
これらのなかで、ITシステムに起因する問題は具体的に検討可能として、解決策が検討されています。
建材物流業界のIT化が遅れている理由
多くの課題がある建材の物流業界ですが、特にIT化が進んでいない業界ともいわれます。その原因はどのようなところにあるのでしょうか。
日刊木材新聞社のWebサイトの「木材建材ウイクリー」に掲載された2015年8月31日のコラムでは、木材・建材業界はIT化が遅れた業界であるとしたうえで、2つの理由を挙げています。
- 家業的経営の事業者が多く、組織的な事業経営を行っている会社が少ない
- メーカーや大手問屋が独自の発注システムを持ち、業界としての標準システムが確立されていない
このように、建材業界のIT化が進んでいない現状が、建材物流業界のIT化を遅らせている一因でもあります。
日本建材・住宅設備産業協会が流通生産性向上のために調査した結果には、その原因を見ることができます。建材業界では、建材・住宅設備メーカーが自社独自の発注システム導入を流通業者に働き掛けている現状があります。これにより、流通業者は仕入先の数だけシステムを導入しなければならず、標準システムの構築が進まない原因のひとつとなっています。
また、経済産業省が進める次世代物流システム構築事業の報告書においても、同様の指摘があります。住宅建材物流業が抱える課題として、住宅会社の多数を占める中小企業では物流の仕組みを構築できていないと報告されています。
建材の物流改革に挑む2社の取り組み
このような現状に対して、ITの積極的活用を軸に建材物流の改革に挑む2社の取り組みをご紹介します。
NECの納材管理サービス
NECは建材物流の効率化に向け、物流管理システムを開発、2015年から提供を始めました。
この「納材管理サービス」では、工程と建材の流れを可視化し一元管理することができます。これにより「何を・どこに・いつ」納品すべきかを自動算出、JIT(ジャストインタイム)配送を可能にするという特徴があります。
大和物流のリアルタイム貨物動態管理システム
大和物流では、別のプロセスから新たなシステムを開発し提供しています。大和物流は大和ハウス工業の物流部門として発足しました。自社の物流改善に長年取り組んできたノウハウをもとに、今では戦略的な物流システムサプライヤーとして成長しています。
この大和物流が開発したリアルタイム貨物動態管理システム、「ロジスティクストレースシステム(iLTS)」は、資材の現場到着時刻をほぼ正確に把握できます。また、大型物流拠点に建材を一括集荷・一括配送することで、共同物流の仕組みを実現し、時間的効率を上昇させコスト削減へとつなげました。
現場への配送は一度サテライトセンターに集約、複数現場の資材を混載してルート巡回することにより稼働車両数を削減する仕組みも導入しています。また、資材を届けることを動脈物流、廃材の回収を静脈物流とみなし、同時に行っています。
この車両数削減と動静脈物流は、環境負荷の軽減にもつながり、コスト削減だけでなく社会貢献の意味合いも持ちます。
建材物流業界の課題と変化
このように、建材の物流業界には多くの課題があり、IT化も遅れている分野といわれています。このままでは、刻一刻と変化する時代の流れに遅れを取ることは必至。しかし、ITシステムを軸に建材物流の改革に乗り出した2社の取り組みのように、変革の兆しは見え始めています。
今後の建材物流業界はどう変わっていくのか、注目が集まります。